Game as a Service を支えるメタゲームとは

何年にもわたってプレイヤーに満足を提供する運営型ゲームを支えるメタゲームとは

日本では10年以上、欧米ではここ数年の間に運営型ゲームが一般的になりました、あるいは一般的になりつつあります。

運営型ゲームを実現する上では、メインゲームの面白さはもちろんですが、それを長期にわたって支えるメタゲームの存在が不可欠となります。 このセクションでは、メタゲームの考え方について解説することで、開発者がよりよいゲームデザインに一歩近づけることを支援したいと思います。

メインゲーム

メインゲームはゲームの中核となる遊びです。 バトルロワイヤルゲームであれば、広大な戦場に100人が降り立って、最後の1人に戦うゲーム部分になりますし、 RPG であれば、敵とのバトルやシナリオの進行がメインゲームにあたります。

問題は、これだけでは長期運営型ゲームを成立させることは不可能に近いことです。 世の中にはメインゲームの面白さだけで何年にもわたってプレイヤーを虜にするゲームも存在しますが、そのようなゲームは稀有です。

メタゲーム

メタゲームはそんなミラクルに任せるのではなく、開発者の努力によって長期間プレイヤーを虜にするためのゲームサイクルです。 欧米のゲームではメタゲームに取り組んでいるタイトルは少なく、一方でアジア圏のゲームでは当然のように行われています。

このような地域差がある前提で、今回はアジア圏でどのようなメタゲームを提供しているのか、その背景にはどのような経験があるのかについて解説します。

メタゲームの存在理由

メタゲームを用意する理由はいくつかありますが、以下の点が特に重要です。

  • ゲームの開発速度とプレイ速度のギャップを埋める
  • プレイヤーを疲れさせない

ゲームの開発速度とプレイ速度のギャップを埋める

みなさんが毎日頑張って数年かけて開発したゲームが、プレイヤーによって10時間程度でクリアされてしまう現実を何度も目の当たりにしてきたことでしょう。

運営型ゲームを実現するにはこのギャップを埋める必要があります。 なぜなら、毎月何らかの変化をゲームにもたらさなければ、プレイヤーは飽きてしまいます。 しかし、開発速度は消費速度より明らかに時間がかかるのです。

メインゲームを繰り返し遊ぶだけでプレイヤーが満足して数年遊んでくれるのであればこんなことは考えなくていいですが、すでに述べたようにそのようなゲームを生み出せる確率は本当に低いです。

そこで開発者の工数は少なく、プレイヤーの工数は多くなるゲームサイクルとしてメタゲームを必要とします。

プレイヤーを疲れさせない

プレイヤーに毎日少しでも遊んでもらうことは、ゲームを長期間運営するためには重要です。 なぜなら、一度プレイヤーがゲームを起動しなくなると、再度ゲームを起動してもらうために払うことになる労力は凄まじく高くなるためです。

メインゲームを遊ぶには最低20分間、本気で取り組まなければならないようなゲームサイクルの場合、毎日遊んでもらうことは徐々に難しくなってきます。 プレイヤーが疲れてきてしまうためです。

メタゲームには「毎日5分でいいから、とりあえず起動してくれ!」 というメッセージを込めることができます。 これによって、プレイヤーは毎日5分だけ起動してくれるようになれば、アップデートやシーズンイベントの告知〜メインゲーム復帰 がゲーム内でスムーズに行えるようになります。

メタゲームの定義

「メインゲームで使用するキャラクターを育成する」「メインゲームの広大なフィールドの中からビューポイントを探索する」など、メインゲームの外側で遊びの体験を提供するのがメタゲームです。

このような遊びは、基本的に目標を立ててから実際にそれを完遂するまでに、数週間〜数ヶ月を要するような非常に長いゲームサイクルになるよう設計します。 忘れてはならないのは、すでに説明したメタゲームの存在理由を満たすデザインとしてゲーム内に組み込みます。

メタゲームの生い立ち

さて、メタゲームサイクルを理解するためには 日本・北米/欧州・中国/韓国 3地域はそれぞれ異なる過程を経て現在のスタンダードとなるゲームを形成してきた歴史を理解する必要があります。

graph TD
  PCGame["PCゲーム"]
  
  subgraph 北米/欧州
    PCGame --> USAmusumentMachine["アミューズメントマシン"]
    USAmusumentMachine --> USConsoleGame["家庭用ゲーム"]
  end
  subgraph 日本
    PCGame --> JPAmusumentMachine["ゲームセンター"]
    JPAmusumentMachine --> JPConsoleGame["家庭用ゲーム"]
    JPConsoleGame --> JPSocialGame["ソーシャルゲーム"]
    JPSocialGame --> JPSmartPhoneGame["スマートフォンゲーム"]
  end
  subgraph 中国/韓国
    PCGame --> ASIAPCMMORPG["PC MMO RPG"]
    ASIAPCMMORPG --> ASIASmartPhoneGame["スマートフォンゲーム"]
  end
  style JPSocialGame fill:#faa,stroke:#f33
  style ASIAPCMMORPG fill:#faa,stroke:#f33

図で示したような流れでそれぞれの地域のスタンダードゲームは醸成されてきました。 中でも、赤い箱で示した部分が Game as a Service を意識して開発された部分です。

つまり、日本や中国・韓国を中心としたアジア地域では長らく運営型ゲームについて考える機会があり、そのためのナレッジの蓄積があります。 その成果物として出てきているのが メタゲーム というゲームサイクルです。

日本のソーシャルゲームで培われたマネタイズ

Facebookゲームを覚えていますか?おそらく、多くの地域の人にとって「ああ、そんなのあったね」と過去のものになっているでしょう。 しかし、Facebookゲームが与えたゲーム業界への影響は大きく、特に日本でその影響が顕著でした。

日本では Facebookゲーム を見て、mixi / mobage / GREE といった日本のソーシャルネットワークサービスもゲームに取り組んできました。 中でも、mobage / GREE の成長は凄まじく、一時期日本のテレビは彼らのCMで占拠されていたような時期がありました。

その源泉となったのが F2P でユーザー数を拡大し、携帯電話のブラウザという乏しい表現力でいかにプレイヤーを惹きつけるのか、という無謀とも思えるチャレンジでした。

しかし、当時任天堂で勤務をしていた私にとっても意外なことに、プレイヤーの多くはソーシャルゲームに没頭していきました。 当時の私は理解できていませんでしたが、ここにメタゲームの力があったのは言うまでもありません。

メタゲームの力でエンゲージメントを最大化したソーシャルゲームは、次第にマネタイズに力を入れ始めます。 そこでコナミのドラゴンコレクションによって生まれたのが「デジタルガチャ」です。

ガチャで入手したキャラクターをメタゲームで育成し、メインゲームを攻略するというゲームサイクルが確立された瞬間でした。

中国の合流と北米・欧州の今後

今、中国はゲーム市場で最も勢いのあるパブリッシャーが多い地域です。

ブラウザで動作するソーシャルゲームが、スマートフォンへの移行にあわせて徐々に表現をリッチに変化させてきた日本式のスマートフォンゲームも幾度となく北米・欧州市場にチャレンジしてきました。 しかし、グラフィックの表現力という観点で家庭用ゲームで目の肥えたプレイヤーに刺さらず、なかなか日本以外の地域で成果が出せていませんでした。

そこに、中国が得意とするMMORPGに日本式のガチャによるマネタイズと周辺のメタゲームサイクルを融合して設計された 原神 が世界中で大ヒット(2020年-2022年 で売上高5000億円以上)しています。 北米・欧州市場の今後を見据えるにあたって、原神の存在無しでは語れません。

日本の開発者にとっては、ブラウザゲーム時代のページ遷移を捨てきれていないUXではなく、原神が実現したシームレスなゲーム体験が非常に参考になるでしょう。

北米/欧州の開発者にとっては、すでに開発を行っているようなリッチなゲーム体験にメタゲームを融合することで、巨大な売り上げを産む長期運営型ゲームに仕立てる仕組みについて参考になるでしょう。

2022-02-11 Kazutomo Niwa